こんにちは、naoです。
前編では、Norton Commando 961のオイル循環方式であるドライサンプ方式や、初期型の砂型エンジンについて触れました。
そして、いよいよオイル交換の整備記録に入るにあたって、サービスマニュアルを閲覧中に目に留まった“銅ワッシャーをトーチで炙る”という記述。
「これで本当にワッシャーが再利用できるの?」
「もしできるなら、特殊サイズのワッシャーだし、純正品も手に入らないし助かる…」
そんな疑問と希望が入り混じり、調べてみた結果、それが“銅の焼きなまし”であることが分かりました。
実際に焼きなまし作業を行い、その手順を前編でご紹介しました。(🔗Wikipedia「焼鈍」リンク)
もし前編をまだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ👇
👉 前編:Norton Commando 961オイル交換で学ぶ“焼きなまし”効果
それでは、後編を始めます!
目次
今回は、焼きなましを行った銅ワッシャーと新品ワッシャーを比較し、実際にその効果を検証した結果をお届けします。
使用したワッシャー(M26・外径32mm×厚み2mm)は、指定サイズ(M14・外径20.4mm×厚み1.22mm)よりも一回り大きいものです。
これは…実は誤発注でしたが、結果的に効果の違いが分かりやすくなりました(笑)
焼きなまし効果の検証実験
実験の目的と概要
銅ワッシャーを焼きなましすることで、新品ワッシャー(焼きなまし前)と比べてどの程度柔らかくなるのかを確かめるために実験を行いました。
ペンチで曲げるだけの試験では、手応えの違いはあっても“感覚的”で伝わりにくいため、
誰が見ても変化が分かるように、視覚的に効果が見える実験方法を工夫しました。
実験準備
実験に使用した道具は、すべて手元にあるものを活用しました。
専用の試験装置ではなく、あくまで“ガレージにある物でできる範囲”で工夫してみました。
用意した物
・M26外形32mm銅ワッシャー(新品×1個,焼きなまし済×1個)
・2リットルペットボトル×2本(重り用)
・計量カップ(水量の調整用)
・秤(重り重量の計測用)
・万力(銅ワッシャーの固定用)
・タイラップ数本(吊り下げ補助・固定用)
・クリップ(タイラップ付きペットボトル吊り下げ用)
・ジョウゴ(給水時の注ぎ口として使用)
実験手順
それでは、実験方法を手順を追って説明します。
①外径32mmワッシャーの中央付近(約16mm位置)にマーキング

今回は突き出し量を半分(16mm)に設定しました。
こうすることで、重りの作用点がワッシャーの中央付近に掛かるようになります。
新品と焼きなまし後のワッシャー、それぞれ同じ条件で比較できるように同位置にマーキングしています。
②銅ワッシャーを万力に固定

重りの荷重が垂直方向に掛かるよう、万力自体を90度回転させて固定します。
2枚のワッシャーを並べ、突き出し量が同じになるように慎重にセットします。
この突き出し量の差が結果に影響するため、定規を当てて位置を正確に合わせています。
③いよいよ、ワッシャーの強度比較実験開始です!

最初に500mlの水量(500g)からぶら下げ試験を開始します。
ペットボトルの口元には、あらかじめ引っ掛け用のタイラップを巻き付けておきました。
給水はジョウゴを使って行い、秤で重量を正確に測定します。
④タイラップ固定用のクリップを介してぶら下げます

ペットボトル側のタイラップを、真鍮製のクリップを介してワッシャーに引っ掛けます。
クリップの位置は中心部になるように慎重に行います。これにより、荷重がワッシャーの中心部にまっすぐ掛かるようにします。
まずは、左側の新品(未焼き)ワッシャーから試験を開始します。
焼きなまし前の銅がどの程度まで変形に耐えられるのか、ここから確認していきます。
⑤重量を500gずつ増やしながら、交互に変形量を確認します


水を計量カップで500mlずつ追加し、そのたびに新品ワッシャーと焼きなましワッシャーのたわみ量を交互に観察します。
2kg(=約2リットル)を超えても変形が見られない場合は、2本目のペットボトルを追加してさらに加重していきます。
実験結果と観察
いよいよ、焼きなましの効果を検証するメインイベントです。
これまで慎重に準備してきたワッシャー比較実験。
ここでは、新品(未焼き)と焼きなまし済み、それぞれに同じ条件で荷重をかけた結果を比較していきます。
「本当に柔らかくなるのか?」「どの程度たわむのか?」
そんな疑問を、数字と写真で“見える化してみました。
実験データは500ml(途中より1リットル)ごとの加重ステップで観察し、手触りや変形の様子も含めて記録しています。
それでは、結果を見ていきましょう。
| 水量(ml) | 荷重(g) | 新品(未焼き) たわみ量(mm) | 焼きなまし済み たわみ量(mm) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 500 | 500 | 0 | 0 | 変化なし |
| 1000 | 1000 | 0 | 0 | 変化なし |
| 1500 | 1500 | 0 | 0 | 変化なし |
| 2000 | 2000 | 0 | -0.3 (手の感触で解かる程度) 画像① | 焼きなましでわずかに変化 |
| 3000 | 3000 | 0 画像② | -4.8 画像③ | 明確なたわみ確認 |
| 4000 | 4000 | -0.3 (手の感触で解かる程度) | -10.4 | 顕著な変形差あり |

焼きなましワッシャーは1,500g超えた時点で荷重増加に比例してたわみ量が増加している事が解りました。

変形が解る程度





考察 〜焼きなましがもたらす変化〜
今回の実験から、銅ワッシャーは焼きなましによって明確に柔軟性を取り戻すことが確認できました。
今回は新品のワッシャーを加熱して実験しましたが、使用済みワッシャーであれば、加熱によって内部の加工応力が解放され、銅の結晶構造が再整列した事により、締め付け時にしなやかに変形できる“元の姿”に戻ると考えられます。
未焼き(新品)ワッシャーでは、4kgの荷重をかけても変形量は約0.3mm程度。
一方、焼きなまし済みでは同条件で約10mmのたわみを確認できました。
この差は単なる「柔らかさの違い」ではなく、シール性能を左右する重要な要素だと思います。
銅ワッシャーは、金属の面同士を密閉する「ガスケット」として機能します。
適度に潰れることで、ボルト締結面の微小な凹凸を埋め、オイル漏れを防ぐのですね。
つまり、焼きなましによって再び変形できる状態に戻すことが、“再利用を可能にする”というマニュアル記載の理屈に一致しました。
まとめ 〜クラシック整備の奥深さ〜
今回の検証を通して感じたのは、
Nortonが持つ「現代車におけるクラシック思想の奥深さ」と「英国車文化の合理性」でしょうか。
新品を使うのが当たり前と思っていたワッシャーも、
加熱ひとつで再利用できる――そんな発想の背景には、
長く大切に機械を維持する英国的な整備思想、
例えば4輪車で言えばLotusなどに受け継がれる“直して使う文化”が息づいているように思えます。
焼きなましという工程は、単に部品を“再生”するだけでなく、
メカニックが素材と対話しながら整備を行う――
そんな手仕事の味わいを感じさせてくれます。
今回の実験結果を踏まえて、
これから行う実際のオイル交換整備でも焼きなまし再利用を試してみたいと思います。
……と、最後はカッコよく締めたつもりでしたが、
実はこのあと、またしても思ってもいなかった“落とし穴”が待っていました。
その真相は――次回、
「Norton Commando 961オイル交換整備の実録編」で詳しくお伝えします。
※本記事の内容は筆者が個人的に行った整備・実験記録です。
安全に十分配慮し、作業は自己責任で行ってください。